スカーフ問題 2004年、日本の衆議院にあたる国民議会は、公立学校で宗教的な標章を着用することを禁じる法案を決議しました。これにより、1989年以来くすぶり続けたスカーフ問題に一定の結論が出されたことになります。スカーフ問題とは、1989年にイスラムのスカーフを着用した二人の女子高校生が、校長によって教室への入室を拒否された事件を指します。校長の処置を支持する意見と非難する意見とが当時のフランスを二分しました。2004年に同様なことが起こり、国民議会の決議となったのです。
政教分離(ライシテ)の国フランス どうしてスカーフ一枚でこんなに大論争にまで至るのか、日本人である私たちにはなかなか理解しがたいものです。しかしこの問題は、フランスでは大革命まで遡ります。フランス革命のめざしたものは、封建領主と教会の支配からの自由でした。革命が生み出した共和制は、教育に対する教会の支配についても排除しようとしました。しかし公式に政教分離の学校が設立されるのは、革命後100年を経過した1881年でした。それ以来、ドイツ占領下のビシー政権の時期を除いて、公立学校でキリスト教について語られることはありませんでした。
フランス共和制における学校の位置づけは、自ら考え行動する人間を育てることでした。そのこともスカーフ問題に関係するのではないかと思います。
政教分離の今後 学校における政教分離の問題は、イスラム教のスカーフに限りません。キリスト教の十字架、ユダヤ教の帽子も着用禁止の対象になるのです。とくにイスラム教とユダヤ教においては、信仰を確認する行為は日常生活の一部となっています。フランス共和国に同化することをフランス国民の条件とする移民対策も絡んで、フランスの政教分離の原則(ライシテ)は、こうした新しい状況にどう対処していくのでしょうか?
数年前、フランス人の記者とイラク人の通訳がイラクで拉致されました。犯人側がフランスのスカーフ問題を釈放の条件に加えた時、フランスのイスラム協会の代表者が「スカーフ問題はわれわれとフランス政府の問題だ」と非難声明を出したことは、私にはひとつの光明のように見えました。
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行動する高校生 今年の春は、教員削減法案反対のデモがフランス全土で繰り広げられました。教員組織や父母とともに高校生のデモが連日のようにおこなわれました。テレビでは反対行動の先頭に立つFIDL(独立・民主高校生同盟)の代表と、削減案に賛成する右派系のUNI-lycee(全国学生連合-高校生組織)の代表が,政治家顔負けの激論を交わしていました。
2006年の春には、26歳以下の採用に際し2年間は理由を提示しないで解雇できるCPU(初回雇用契約)法案にたいして、CGTや全国学生連合とともに連日デモを組織しました。このときは、デモの効果を低めることを目的として高校生の隊列に紛れ込む極右などにたいし、隊列の両側を男子がスクラムを組んでデモを守っていたのが印象的でした。このたたかいはCPU法案を撤回に追い込み、ドビルパンの退陣のきっかけをつくりました。
行動する高校生を生み出すのは? こうした行動する高校生はどうして生まれるのでしょうか。この問いに答えるのはとても難しいことです。私には、ひとつの要因として歴史と哲学を重視するフランス共和制の伝統にあるのではないかという気がするのです。フランスの高校生は、最終学年で哲学を学びます。それも概論ではなく、ひとつの哲学書を1年間通して学ぶのです。(バカロデアの哲学の問題は、抽象的な問いについて自分の考えを述べなければなりません。そして点数配分において、哲学により比重がおかれます。)そしてテレビも討論debatの番組を多く放送し、外国を含めた過去の重要な出来事を周年ごとに特集します。こうした環境が、高校生の思考と感性を育てるのではないかという気がします。そして討論を通じてひとつの意思、そして行動が生まれるのではないかと思うのです。
高校生組合 syndicat lyceen ここで行動を呼びかける高校生の組織を見ることにします。高校生組合の全国組織は4つあります。1987年設立のFIDL(独立・民主高校生同盟)は5,800名の活動家を、1994年設立のUNL(全国高校生連合)は約6,000名、2004年設立のSUD-lycee(連帯・統一・民主の高校生)は約900名、2005年設立のUNI-lycee(全国学生連合―高校生組織)は約4,600名の活動家を組織しています。そして今年の9月にはUMP-lycees(国民運動連合-高校生組織)が誕生しました。これらの高校生組織はそれぞれ、政党あるいは運動体と友好関係にあります。FIDRは共産党と「SOS人種差別」という団体と、UNLは社会党と友好関係をもちます。この二つの組織は、この春の行動で共闘を組みました。UNI-lyceeは教員削減法賛成の立場で、また昨年の大統領選挙ではサルコジ陣営の選挙運動に貢献しました。そして今年設立されたUMP-lysees は政府与党UMPの高校生組織です。
日本ほどではありませんが、フランスも紅葉しています

公園で採集した落ち葉と木の実


学校の名称 仏独共同の国営放送局であるARTEが、社会全般について仏独の比較をする「カランボラージュ」という番組を放送しています。先日この番組で、学校の名称について仏独比較をしていました。
59,457校あるフランスの公立学校には、祖国あるいは社会に寄与した人物の名前がつけられています。上位10校をみていくと、イソップ寓話集の仏語翻案で有名なラ・フォンテーヌが10位(330校)、キュリー夫妻の長女夫婦イレーヌとフレデリックが9位、キュリー夫妻が8位、ユーゴーが7位(330校)、細菌学者のパストゥールが6位、社会主義者で反戦、反植民地を貫いたジャン・ジョレスが5位、「星の王子様」の作者サン・テグジュペリが4位、「枯葉」で有名な詩人ジャック・プレベールが3位、フランスの対独レジスタンス組織をまとめたジャン・ムーランが2位、そして第3共和制で無償、無宗教の教育制度をつくったジュール・フェリーの名が1位を占めました。
ドイツの公立学校では、アインシュタインが10位、9位にアンネ・フランク、8位に児童文学者のケストナー、4位にシラー、3位にゲーテ、2位にシュバイツァー、そして1位は反ナチス活動をおこなった「白バラ」のソフィーとハンスのショル兄弟となっています。