*これはフランスのLycée 1(高校2年に相当)で使われる文学・社会経済コースの仏独共同教科書です。
歴史家の目 その2「抑制されたカオス」
Sebastien Haffner(1907年~1999年)
ドイツのエッセイストおよび歴史家。1933年の政権奪取のときは、ベルリンにいた。
「制御されたカオス」
[・・・] ヒトラーは熟考の上に、最も多様で、最も独立性の強く、自らの限界を知らない諸権力が、競合し合い、合意し合い、併存し合い、妨げ合う中で、自分だけはすべての権力の上に立つような状況をつくり出した。それが彼にとって、自分が欲するすべての領域において、完全で無制限の行動の自由を確保するための唯一の方法である。
なぜならばヒトラーは、次のことが確かであると直感していた。すなわち憲法に基づくすべての命令が、諸機関の権力を、それがいかに強力であろうと制限するということ。法治国家においては、最も権力をもった人間さえも、すくなくとも様々な管轄の壁にぶつかるのであり、彼はどんな命令も、また誰に対しても下すことはできず、所管は彼ぬきで物事を処理していくという体質をもつということを。しかしヒトラーはどちらも採らなかった。憲法の類はすべて排除し、それに代わるものはなにも置かなかった。彼は国家の奉仕者の長であるを望まず、指導者Fuhrerすなわち絶対的な支配者であることを望んだ。
そして彼は、無傷の国家システムのなかでは実現不可能である絶対的支配が、制御されたカオスを前提とすることを理解していた。したがってヒトラーは、最初から国家をカオスによって置き換えた。そして存命する限り、カオスを制御できることを知っていたのである。
Sebastian Haffner, 「アドルフ・ヒトラーとかいう人物について」Grasset, Paris,1979年
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