ではどんな名称を選択すべきであろうか?
ムーニエとイギリスの政治形態の模倣者たちは、次のような名称を提案した。少数部分の欠席のなかでの国民の「多数部分」の代表というものである。これは国民を二つに分裂させ、二つの議会の設置に導く表現である。
ミラボーは、フランス人民の代表という表現の方を好んだ。この言葉は弾力に富み、その意味するところは、伸縮自在である。
まさにその点を、傑出した法学者であるタルジェ(パリ選出)とトゥーレ(ルーアン選出)が批判した。二人はミラボーに、人民 peuple が [ 古代ローマにおける-訳注 ] 平民 plebsを意味するのか、あるいは人民 populusを意味するのかを尋ねた。曖昧な部分が露わになったのである。国王、聖職者、貴族は間違いなく、人民を平民の意味に、すなわち下層の人民、単に国民の一部の意味に解釈するであろう。
議員の多くが、その曖昧さを感じ取らなかった。また曖昧さが、議会にどれほどの土地を失わさせるかも考え及ばなかった。皆がそれを理解したのは、ネッケルの友人であるマルーエが、この人民という言葉を受け入れた時であった。
ミラボーが国王の拒否権を設けようとしているのではないかという疑念が、人々の怒りをかき立てた。議会でもっとも気骨のある一人である、ジャンセニストのカミュが、強い調子でこれに応じた。「我々は、今のままの我々でいるのだ。拒否権を認めることで、真実はひとつで、不変であることを妨げるとでもいうのだろうか?王政の承認が、物事の秩序を変えたり、その本質を歪めたりするとでもいうのだろうか?」。
反対の声に苛ついたミラボーは、自制心を失い逆上したあげく次のように言った。「私は国王の拒否権もまた必要であると考える。そうでなければ、フランスにいるよりむしろコンスタンチノープルで暮らす方がまだましだ。そうとも、はっきり言おう。明日には身分剥奪をまぬがれた600人の最高位にある貴族が、明後日には世襲した貴族が、そして他のすべての国がそうであるように、ついには至る所で貴族がのさばることになるかもしれない。これ以上に、私が恐れることはないのだ」。
この二つの危難のうち、ひとつはこれから起こりうるものであり、もうひとつは現に起こっていることである。ミラボーは、いま起こっている確かな危難を重視するのである。もし仮に、ある日この議会が自らを永続させ、かつ世襲の専制君主になることを望みうるとしたら、この専制君主は改革が必要なこの救いがたい宮廷を専制的権力で武装させ、全ての改革を妨げるのである。国王!国王!と、何故いまだにこの古ぼけた宗教を振りかざすのか?ルイ十四世以来、王たるものが存在しなかったということを知らない者がいるのだろうか?闘いは二つの政治集団の間でおこなわれている。ひとつは議会に陣取る集団、すなわち偉大な時代精神であり、最良の市民であり、フランスそのものである。もう一つは、権力を濫用する集団で、ディアーヌ・ドゥ・ポリニャック公爵夫人の館で、すなわちかつてのドュボア、ポンパドゥール、ドュ・バリー* の部屋で、密議をこらしていた。
* いずれもルイ15世の愛妾
ミラボーの演説は、雷鳴のごとき怒号と、嵐のような呪いと侮蔑の言葉とによって迎えられた。彼はその巧みなレトリックをもって、誰も口にしていない(人民 peupleという言葉に価値はないという)批判に対して反駁したが、事態は少しも変わらなかった。
夜の9時になって、議会は票決に移るために議論を終了した。王政そのものに関わる突飛でしかし率直な質問が出され、宮廷が、近い将来人民が王になるのを妨げる唯一の行動に出ないかという懸念が生じた。宮廷はヴェルサイユの周辺に凶暴な武力、軍隊を配置させている。これを使って中心となっている議員を排除し、三部会を解散させることもできる。もしパリが蜂起すれば、兵糧攻めにするだろう。この無謀な犯罪は、宮廷にとって最後の大勝負である。人々は、宮廷が勝負に出ると思った。そこで今夜にでも議会を開いて、事前に手を打つことを求めた。400名を超える議員がこの意見である。反対は、多く見積もっても100名だった。このごく少数の議員は、一晩中怒号と暴力に訴え、そのため投票のための点呼ができなくなった。しかし多数派が暴威をふるわれるという恥ずべき光景を見て、また遅延によって議会がますます窮地に陥るのを見て、そして今にも自由の成果と未来の救済が無に帰すのではないかと案じて、議場の興奮は傍聴席を埋めた聴衆まで巻き込んだ。一人の男が議場に跳び出して、マルーエの襟をつかんだ。この男は、執拗に喚いていた集団の中心人物であった。男は逃走したが、怒号は止まなかった。この喧噪を前にして、議長のバイイが声を発した。議会は確固たる態度と威厳を保ち続けている。忍耐は力なり。議会はこの騒がしい一団が、叫び疲れるまで静粛に待ち続けると。夜中の1時、議員の数が少なくなったので、投票は朝に持ち越された。
続く
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