
銃殺される市長のフレッセル
勝利者たちの戦いはまだ終わらない。サン・タントワーヌ通りでも戦いを助勢している。グレーヴ広場に近づくにつれ、群衆は少しずつ増えてきた。戦闘に参加しなかったので何かをしたい、せめて捕虜を虐殺するくらいはしたいと思っているのである。トゥールネル通りに出たところで一人殺されており、セーヌ河畔でも一人殺された。髪を振り乱した女たちが、後をついてきた。死者のなかに夫を見つけ、亡骸をそこに残し、夫の殺人者たちを追いかけてきたのである。女たちの一人は口から泡を飛ばしながら、ナイフを渡してくれるよう周りに頼んで回った。
ドゥ・ローネーは、この危地の極限のなかで、寛大な心と人並み以上の力をもつ二人の男に、両脇を抱えられて歩いている。抱えているのは、ユランともう一人の男である。男はプチ・タントワーヌまで行ったところで、群集の渦によって引き離されてしまった。ユランはローネーをしっかりと摑えて離さなかった。ここからすぐ近くのグレーヴ広場まで連れて行くのは、ヘラクレスの12の功業を超える難行である。ユランはもう何をしたらよいか解らなかったが、一人だけ帽子を被っていないことで、人々がドゥ・ローネーを見分けるだろうと気づいて、彼の頭に自分の帽子を被せるという英雄的な考えを思いついた。しかしこの瞬間から、人びとの拳がドゥ・ローネーを襲った。ようやくアルカード・サン・ジャンのアーケードまで来た。ドゥ・ローネーを、外階段を登らせて内階段に押し込めば、全ては終わりであった。しかしそれに気づいた群集は、ドゥ・ローネーに対して怒りを爆発させた。ユランが見せた怪力も、ここではもう役には立たなかった。巨大な蛇のような、渦をまいた群衆の塊が、何度もユランを締め付けた。足は地面を離れ、押され、押し返され、そして敷石の上に投げ出された。ユランは、二度立ち上がった。二度目に立ち上がったとき、槍の先に突き刺したドゥ・ローネーの首が、空中に掲げられたのが見えた。
サン・ジャンの間では、別の光景が進行していた。捕虜たちが、差し迫った死の恐怖を感じながらそこにいた。人びとは、とりわけバスティーユの砲兵であったと思われる三人の廃兵を執拗に攻撃した。一人は負傷していた。司令官のドゥ・ラ・サルは、その肩書きを頼りに信じがたいほどの力を発揮し、ついにその廃兵を救い出した。負傷した廃兵を外に連れ出す間に、他の二人は引きずりまわされ、市庁舎の向かいにあるラ・ヴァヌリー通りの隅にある街頭に吊るされた。
この大きな熱狂のなかで、フレッセルは忘れられたかに思えた。しかし結局は、これが彼の命取りになった。執拗にフレッセルを告発しようとするパレ・ロワイヤルの連中は、少人数であったが、他の事に夢中になっている民衆に不満であった。執務室の近くに陣取り、フレッセルを脅し、一緒に来るように強要した。これ以上死を待つことが、死そのものよりも辛いと思ったにしろ、この日の大事に皆が心を奪われているうちに逃げ出せるかもしれないという望みをもったにしろ、フレッセルは、最期には彼らに屈して言った。「よろしい、皆さん。パレ・ロワイヤルへ行きましょう」。しかしフレッセルは、河畔までも行けなかった。一人の若者が、拳銃で彼の頭を撃ったのである。
続く
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