広間に集まった大勢の人びとは、流血を求めたわけではなかった。血が流れるのを呆然として見ていた、と目撃した者が語っている。皆、この気が狂いそうになるほど奇怪で悪夢のような惨状を、口をぽかんと開けて見ていたのである。中世のあらゆる時代の武器を、そこに見ることができた。数世紀がここに居合わせているのである。エリーはテーブルの上に立ち、兜を被り、三ヶ所で折れ曲がった剣を手にしていた。さながらローマの戦士といったところである。捕虜に取り囲まれたエリーは、彼らのために懇願した。フランス衛兵も、彼らに対する褒美として、捕虜に慈悲を与えるよう頼んだ。
このとき妻を連れた一人の男が拘引されてきた。いやむしろ担がれてきたというべきだろう。この男は元大臣のモンバレイ公爵で、柵のところで逮捕されたのである。女は気を失った。男は机の上に投げ出され、12人の男の腕に押えられ、くの字に曲げられていた。この哀れな男は、こうした異常な姿勢を強いられながらも、自分が大臣であったのはとうの昔のことで、また息子は自分の領地において革命に少なからず貢献していると述べ立てた。ドゥ・ラ・サル司令官はモンバレイ公爵を弁護し、自らを危険にさらした。しかし、いつしか人びとの気持ちは和んでいき、そしていつの間にか押さえていた手を放していた。ドゥ・ラ・サル司令官はなかなか力持ちで、この哀れな男を持ち上げた。この力業は人びとの好評を博し、拍手が起こった。
同じ頃、素晴らしい働きをした勇者エリーは、いっさいの告発と断罪を一挙に終わらせる方策を見つけた。彼は、バスティーユで働いていた子どもたちがいるのに気づき、叫び始めたのである。「どうか慈悲を!この子どもたちに慈悲を!」
もしあなたがそこにいたならば、褐色の顔と、火薬で真っ黒になった手が、大粒の涙で洗い清められるのを見たであろう。嵐の去ったあと、大粒の雨が降るように。もはや、正義も復讐も問題ではないのだ。法廷は打ち砕かれた。そしてエリーは、バスティーユの勝利者に勝利したのである。勝利者たちは捕虜に国民にたいする忠誠を誓わせ、彼らとともに引き揚げた。廃兵たちは、安堵した表情で廃兵院に向った。フランス衛兵はスイス兵を捉え、安全に彼らの列の中に紛れ込ませた。そして自分たちの兵舎に連れて行き、住まわせ、食料を与えた。
感嘆すべきことに!寡婦たちもまた、寛大な心を見せた。赤貧のなかで子どもを育てなければならない彼女たちは、分配された小額の金すら、自分たちだけで受け取ろうとはしなかった。バスティーユの爆破を食い止めたにもかかわらず、誤って殺されたひとりの哀れな廃兵の寡婦と、金を分かち合ったのである。こうして包囲された者の妻は、包囲した者の妻たちによって、いわば養女として受け入れられた。
第1巻 完
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