ひと月延びた。招集がかかって三度の延期の後のひと月である!それは人々が食糧不足に苦しむ、ひと月なのだ!この長かった待機の間、富裕身分は休眠を決め込んで、全てにかかる出費を引き延ばしていたことに注目しよう。働くことを止めたのにである。自分の腕と日雇い仕事でしか、その日の食い扶持を稼ぐことができない者は、仕事を探しに行き、見つからないときは乞食をし、貰いがないときには盗みをするしかないのだ。いくつもの飢えた一団が国内を荒らし回った。これらの集団は、抵抗があれば怒り狂って人を殺し放火をした。恐怖が遠くまで広がった。そして通信が途絶え、飢饉が増大した。荒唐無稽な話が無数に流布した。盗賊は、宮廷が金で雇ったというのである。宮廷はというと、その非難の矛先をオルレアン公の方に向けさせようとした。
議会をとりまく状況は難しい。処方のすべてが議会の活動にあると人びとが期待するその時に、何もせずに議席を温めていなければならない。フランスの苦痛に満ちた叫び声に、いわば耳を塞がなければならない。フランスそのものを救うために、そしてフランスに自由を築くために!
聖職者はこの困難な状況をさらに悪化させた。第三身分に対して、じつにパリサイ人が考え出すような偽善を思いついたのである。一人の高位聖職者が議会に来て、貧しい人々、農村の悲惨さについて涙を浮かべ語ったのだ。議場にいる4000人を前にし、目を背けたくなるような黒パンの一切れをポケットから取り出してこう言った。「これが百姓のパンです」。聖職者は、行動しよう、そして食料問題について、貧困の悲惨さについて協議するための委員会をつくろうではないかと提案したのである。
危険な罠だ。議会は譲歩し活動を開始することによって、諸身分の分離を認めるのか。あるいは社会の不幸に無関心であると公言するのか。至る所で始まった混乱の責任は、直ちに議会にのしかかる。普段よく発言する者が、この火傷をしかねない問題については口をつぐんでいる。しかし無名の議員であるポピュリュスとロベスピエールが、強い調子でしかも才智に富んだ弁論をもって、みんなの気持ちを代弁した。聖職者に「合同の会議場」に来て、この万民の苦しみについて議論するように促した。議会も聖職者に劣らず心を痛めているのだからと。
この打開策で、危機が弱まるわけでもなかった。宮廷、貴族、司祭にとって、人民を操ることなど朝飯前ではなかったか?フランスを救うと約束しながら、不公正な主張によってなにひとつ妥協せず、フランスを飢餓のなかに放置する、傲慢で野心を抱いた饒舌家の議会の、なんと立派な台詞であろうか!
宮廷はこの武器を、握って放さない。そして議会をつぶすことができると信じている。国王は、食糧の件で自分たちの慈悲深い提案を携えて来た聖職者の代表に、次のように語った。「全国三部会に委員会を設置することについては、喜んで検討しよう。余の参事会も援助ができよう」。
聖職者は人民のことを気にかけている。国王もしかり。貴族もおなじ台詞を吐くことに、どんなためらいがあろうか。第三身分だけが、取り残されることになる。他のすべては人民に良きことを望んでいるのに、彼らだけが望んでいないことを証明することになるのだ。
第1巻第2章 終わり
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