いつも「フランスでは」を口にする、仏蘭西出羽守さんに聞きました。
-日本では、国歌に起立しない公務員を処罰すると公言する自治体の長が現れました。フランスでは、国旗はどのように位置づけられていますか?
-フランスでは、国旗はフランスのシンボルのひとつである。フランスのシンボルには、フランス共和国のモットーである自由・平等・友愛、フランス共和国を象徴する三色旗、ラ・マルセイエーズ、フランス共和制を象徴するマリアンヌ(女性)そしてフランス人の祖先であるガリア人を象徴する雄鳥と、いろいろ役割分担がある訳じゃ。
-強いて、その中でもっとも重要なシンボルは何でしょう?
それはもちろん、自由・平等・友愛のモットーじゃ。何も旗や歌のために革命をやったわけではないからのう。歴史を経るなかで、フランス人の意識の中では、連帯と寛容がこれに付け加わっておる。国民を統合するのは、旗とか歌とかではなく、理念ということじゃ。フランスでは、裁判官は法律集、判例集とともに「人と市民の権利宣言」を携えて法廷に入ると聞いておる。
-フランス国旗は、どのようにして生まれたのでしょうか?
-三色旗の赤と青はパリ市の市章、白はフランス王家の象徴じゃった。パリ市民によるバスティーユ奪取の後、ルイ16世がパリを訪れたときに、国王とパリ市民との和解の象徴としてこの三色旗が生まれたのじゃ。国王一家がパリ市民によってヴェルサイユからパリに連れてこられた、ヴェルサイユ行進の原因のひとつとして、この和解の旗がヴェルサイユで蹂躙されたことが挙げられる。旗が意味する和解が裏切られたということじゃ。
-フランスでは、公務員が国旗を尊敬しないと処罰されるのでしょうか?
-フランス共和制においては、公務労働は公共善といってな、国を支える最も重要な要素として考えられておる。国民の支持は絶大で、公務員の市民としての権利は強固に守られておるのじゃ。
-国歌は国民にどのように受け止められているんでしょうか?
-ラ・マルセイエーズも、フランス革命に深く関係しておる。もともとは、工兵大尉ルージェ・ド・リールが、フランスの革命政府に武力干渉をするオーストリアに出征する部隊を鼓舞するために一晩で作詞・作曲した「ライン軍のための軍歌」であった。祖国防衛のために、マルセイユから進軍した義勇兵が歌ったので、ラ・マルセイエーズという名前が冠せられ、1795年に国歌になった。第一帝政、王政復古にかけては、暴君を倒せという内容のために禁止されたが、第三共和制で正式に国歌に制定された。今は、ラ・マルセイエーズを聞いて、自分のアイデンティティをそこに感じる人もいるし、そうではなない人もいる。サッカー場では、ラ・マルセイエーズが演奏されると、ブーイングが起こると聞いておる。シャンソン歌手のゲンズブールが、レゲエ音楽に編曲したラ・マルセイエーズを歌うコンサートに、パラシュート部隊を中心にした右翼が押しかけてきた。ゲンズブールは「そんなに国歌が歌いたければ、一緒に歌え」と正調ラ・マルセイエーズを歌ったのは有名な話。こうしたファナティスムも存在する。要するに多様なのじゃ。識者の中では、今日の理念に合った歌詞にしてはどうかという意見もでておる。まあ、どこかの国と違って、自由に議論しとるということじゃな。
-ありがとうございました。最期になにか一言。
-近代民主主義国家の条件は、まずなによりも個人の権利が尊重されることが大前提じゃ。それを基礎にして、社会に対する信頼、そして他人に対する連帯、多様性を認める寛容が生まれてくるのじゃ。最近の日本をみていると、残念なことに、市民の権利が尊重されず、寛容の精神が薄らいでいくように思われる。
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