フランス雑感 その2新学期は9月から フランスの新学期は9月からです。新学期は「復帰」といいます。
いかにも長いバカンスから復帰したという感じです。政治や労働運動も、9月に「復帰」します。フランスでは始業式がありません。入学式も卒業式もないのです。いきなり授業がはじまります。
フランスの学制について少しお話します。幼稚園が2歳から5歳まで、小学校は5年制(6~11歳)、中学校が4年制(12~15歳)、そして高校は3年制(16~18歳)です。義務教育は小学校(6歳)から高校の1学年(16歳)までです。私立を除くと、幼稚園から大学まで公立です。教員は国家公務員なので、教師の異動は全国規模となります。
学費は無料 19世紀の第三共和政の下で、無償および非宗教の義務教育制度が施行されました。幼稚園から大学まで学費は無料です。大学生は年間140ユーロ(1万7千円くらい)の登録料を払うだけです。高い教育費に頭を痛める日本の親にとっては天国のような制度ですが、ここには、「将来のフランス共和国を支える子どもの教育は、当然国が直接責任をもつ」という共和制の理念が貫かれています。成績不良による落第や成績優秀による飛び級もあります。
小学校と中学校では教科書が貸与、つまり使いまわしされます(小学校については文具費を支給)。ですから日本のように、教科書に自由に書き込みをすることができません。もっとも授業は、国民教育省の指導内容を教えることに重きを置き、教科書はあくまでも参考程度です。
入学試験は1度だけ 日本では幼稚園にも入学試験があると聞きますが、フランスでは高校の最終学年に、高校卒業試験と大学入学資格試験を兼ねる全国試験(バカロレアといいます)があるのみです。これに合格すれば全国どこの大学でも入学できます。戦後になって、技術の習熟度をはかる資格制度を設けようという声が産業界に高まったのをうけて、職業および技術バカロレアが加わります。バカロレア資格をもっていれば、就職の際に大変有利になります。
エリートと庶民の階層社会 自由・平等・博愛のフランスは、実はエリートと庶民の階層社会でもあります。フランスには、フランス革命のときに共和国を支える技術者、研究者あるいは教育者の養成を目的としてつくられた二校のグラン・ゼコール(大学校とでもいうのでしょうか)があります。このグラン・ゼコールは、今ではエリートを養成する機関となり、就職した企業や公共機関ではスタートから管理職コースを歩みます。
ここの卒業生の一部は、さらに官僚を養成する学校をでて官僚となり、そして政治家や大企業の経営陣を形成します。政界に進出しても企業に天下りしても、6年間は元のポストと給与が保障される特権や、グラン・ゼコールの出身階層が社会の上層部に限られる傾向にたいする批判もあります。
逆に大学を卒業した青年が、たとえば職人になりたいと思っても、職人への道は職業高校の卒業生に占められるので、フランスではかなり難しくなります。
行動する高校生 去年の春は、教員削減法案反対のデモがフランス全土で繰り広げられました。教員組織や父母とともに、高校生が連日のようにデモをおこないました。テレビでは反対行動の先頭に立つ高校生組織の代表と、削減案に賛成する右派系の高校生代表が、政治家顔負けの激論を交わしていました。
2006年の春には、26歳以下の採用に際し2年間は理由を提示しないで解雇できる初回雇用契約法案にたいして、労働総同盟や大学生の組織とともに連日デモを組織しました。このたたかいは法案を撤回に追い込み、当時のドビルパン首相の退陣のきっかけをつくりました。
こうした行動する高校生はどうして生まれるのでしょうか。この問いに答えるのはとても難しいことです。私が経験した二つの出来事を紹介します。
私がフランスに来てまもなくの頃、近くの公園を散歩していたら、二人の小学生が私に署名を頼みにきました。公園の畑をつぶして建物を作る計画に反対する署名です。公園の畑は今も健在です。
また若者を対象としたあるテレビ番組が、レジスタンスを題材にした映画を紹介しました時の事です。この映画のモデルのひとりになった老婦人が、当時の体験を語り終えスタジオを退場するとき、会場の若者が全員立ち上がって拍手で送ったのです。
フランスの初等教育では、自分の考えを明瞭に表現する教育が徹底しておこなわれます。またフランス革命を生み出した思想・哲学と、共和制を闘いとった歴史を学ぶことが重視されます。高校生の最終学年では、概論ではなくひとつの哲学書を一年間通して深く学びます。そうした環境の中で一人ひとりが自分の考えをもち、それぞれの考えを討論し、ひとつの意思をつくりあげ、そして行動が生まれるのではないかという気がしています。
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