フランスの行政権について見てみましょう。日本人の感覚からすると、ちょっと引いてしまうところ(大統領の核兵器を作動する権利など)もありますが、大統領、政府、議会の権力関係がすこし解るのではないかと思います。次回は立法権をとりあげます。中学4年の公民教科書「明日、市民になる」(2000年版)に載っています。

共和国大統領はすべてのフランス人の大統領

国家元首である共和国大統領は、国家の安定を監視する任務を持ちます。

大統領は、いくつかの領域において一人で決定する、固有の権限(資料1および2)をもちます。
大統領は首相を指名します。そして首相の職務を終わらせることができます。また国民投票によって、国民の民意を問います。そして国民議会を解散することができます。大統領は、憲法院に提訴することができます。

大統領はまた、権力を分かち合います。大統領は三軍の長であり、核兵器を作動することができます。しかし宣戦布告については、議会の承認によってなされます(資料5および6)。大統領は議会で議決された後、法律を公布します。大統領は閣議を主催し、政府が決定した政令および命令にサインします。また首相および法務大臣との合意の下に、特赦権を行使します。

政府、多数派で構成する内閣

国民議会の多数派の中から指名された首相は、政府のリーダーです。大臣と共に、国の政策を指導し(資料3および4)、行政を指揮します。

首相は、共和国大統領と緊密な関係をもちます。大統領は首相の提案にもとづいて大臣を任命します。そして決定の大部分について、首相と相談しなければなりません。首相が大統領の与党に属している場合は、首相は大統領に従い政策を実行します。反対にコアビタシオンの場合、首相の力は大統領の力より優位に立ちます。なぜならば首相が議会多数派のリーダーであるからです(資料7および8)。

首相は法案を発議する権利を、議会と共有します。首相は閣議で討議した後、国民議会にたいして政府の責任をもつことができます。もし信任されない場合は、内閣は辞職します。
<用語解説>
行政―フランス全土にわたって供与される国のサービス
コアビタション―大統領と首相が、それぞれ対立する政党に属していること
恩赦権―受刑者に対し罪を軽くすること
多数派―選挙で過半数を得た政党あるいは政党のグループ
固有の権利―いくつかの決定を単独で行うことができる権利
大統領は決定する<資料1>
1959年1月19日
「共和国大統領であるド・ゴール将軍は昨夜、司法大臣のミシェル・ドゥブレ氏を呼び出し、国務について話し合った。会談のなかで、大統領は組閣に関する提案をドゥブレ氏に委任した。17時30分ドゥブレ氏は、再びエリゼ宮を訪れた。彼は、政治一般と彼の政府の協力者として想定した人物に関する自分の考えをド・ゴール将軍に提案して認可を求めた。共和国大統領は、ミシェル・ドゥブレ氏を首相に指名した。そして首相の提案にしたがって、以下のように閣僚を任命した・・・」
共和国大統領により公表されたコミュニケ
<資料2>
1981年5月22日
1981年5月10日に選出された共和国大統領フランソワ・ミッテランは、右派が多数派を占める国民議会を解散した。6月の総選挙では、大統領与党の社会党が、国民議会の単独過半数を占めた。
閣議<資料3>1997年の閣議において、次のようないくつかの議決がなされた。
・文化大臣はパリ国立オペラの規約を定めた政令を発表すること。
・健康担当大臣は、緊急医療体制の再編計画を発表すること。
・内務大臣の提案により、知事の任命は閣議のあとになされること。
<資料4>1958年の第五共和国憲法
第13条 共和国大統領は、閣議において審議された命令および政令にサインをすること
大統領は、他の権力とともに統治する<資料5>
1991年1月
イラク軍のクエート侵略に先立ち、フランソワ・ミッテランは特別会期の議会を招集した。彼は議会へのメッセージの中で、1万6千名のフランス兵を中東に派遣する提案をおこなった。首相のミッシェル・ロカールがおこなった、クエートを解放するための軍事手段についての表明は、国民議会において523票対43票の大差で可決された。防衛大臣ジャン・ピエール・シュベーヌマンは、フランス空軍の出動がクエート領内に限ることを明言した。大統領は1月17日から2月28日にかけて、毎晩三軍の参謀部、首相、外務大臣、内務大臣、防衛大臣を集めた防衛会議を招集した。
<資料6>
1958年第五共和国憲法
第20条 政府は、軍事力を自由に使うことができる。
第35条 宣戦布告は、議会が許可する。
首相は、状況によって変化する権力<資料7>
首相と大統領が、ともに多数派に属する場合
1962年から1968年までド・ゴール将軍の首相をつとめたジョルジュ・ポンピドゥは、国家元首と同じ政党に属し、議会では多数派を手にしていた。
「直接に国民から信任を得た国家元首は、行政に関して異議をはさむ余地のない存在であり、またそうでなければならない。[…] 首相は、その名が意味するとおり、内閣のトップでしかない」
ジョルジュ・ポンピドゥ、ゴルディアスの結び目(難問)、Plon社、1974年
<資料8>
1997年、共和国連合RPRに属する共和国大統領ジャック・シラクは、「多元的左翼」とともに総選挙を勝利した社会党書記長であるリオネル・ジョスパンを首相に指名した。
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