イル・サンジェルマンの散歩道

「国民革命」

　敗戦の直後からペタン元帥は、「国民革命の必要性を受け入れる」ことを国民に求めた。この「国民革命」は、反教権主義の共和制、議会主義、人民戦線を目の敵にする右翼ナショナリストが持続的に進めてきたものであった。1940年以降、ユダヤ人とフリー・メーソンは差別の対象になった。

　「労働、家族、祖国」が、共和制の標語[自由・平等・友愛]に取って代わった。ヴィシー体制は、農民に代表されるフランスの徳を賛美した。そして農地への復帰を政策とした。階級闘争を激しく非難した。労働組合は解散させられ、「労働憲章」の枠内でつくられた労使協調の決定機関がそれに取って代わった。また家庭を守る母親や大家族を模範として奨励に努めた。ビシー体制は、まさに国民の崇敬の対象となったひとりの高齢の軍指導者が体現した。たとえ民兵団Miliceの主導者Joseph Darnandのような本物のファッシストが1935年から政府に加わったとしても、その体制は反動的独裁であった。

対独協力

　対独協力は、1940年10月24日にペタンとヒトラーの会見がおこなわれたとき、公式にフランス側が進んで申し出たものであった。ヴィシーの首脳部、ペタン元帥も彼の後継者であるピエール・ラバルも、フランス艦隊とフランス植民地帝国の中立を条件に、ドイツがフランスを、もはや敵としてではなく、ヨーロッパのパートナーとして扱う約束を取りつけることができるだろうと考えた。フランス国の政策は、Déatの国家人民連合（RNP）やDoriotのフランス人民党（PPF）といった、パリに基礎をおくファッシスト諸組織の、対独協力信奉者が説く政策と一線を画そうとした。しかし1941年以後のボルシェヴィズムにたいする闘いのような共通の利害がうまれると、その違いはなくなっていった。

　それにもかかわらず、国家の対独協力は、挫折を余儀なくされた。ヒトラーは、最小のコストで最大の成果を勝ち取る方法でしか、協力を受け入れなかった。連合軍の北アフリカ上陸（1942年11月）の直後、ヴィッシー政権は[植民地]帝国を失った。艦隊は、1942年から南区域を占領するドイツ軍の手に渡らないように、ツーロンで自沈した。フランス経済は、占領者によって定期的に搾り取られた。フランスが1941年から1944年までの間に払い込んだ額は、第三帝国の国民総生産の５％から９％を占める。1943年2月16日に強制労働奉仕STOが設立されてから、６５万人の労働者が、ドイツへ送られた。ヴィッシー政権は、フランスの主権を回復するという口実の下に、占領軍を献身的に補佐した。ユダヤ人の強制収容やレジスタンス活動家を罠にかけることにフランス警察が協力すると確約したのである。

体制の権威失墜

　増加する占領者の課税は、生活条件を悪化させた。そして物資の供給は、フランス人の主要な関心事となった。配給券は、年齢に応じて一日1,200カロリーから1,800カロリーと、生命維持の最低限しか支給されなかった。公定価格は、大戦中に3倍に跳ね上がった。物資の欠乏は闇市を生んだ。工業生産高は、1939年から1944年までの間に６０％に落ち込んだ。にもかかわらず、わずかの間の気晴らしを提供するスポーツ、ラジオ、映画にたいして、フランス人の熱狂は止むどころか、観客の動員数を日に日に更新していった。

　占領者への妥協によって得たものは何もなく、ヴィシー体制は1941年以降、世論における信頼性の大部分を失った。にもかかわらずペタン元帥の人気は、最後まで保持された。多くのフランス人は、彼が占領者との板挟みになっていたと誤って信じていたのである。

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＜用語の説明＞

労働憲章　1941年10月4日に発布された。これによって労働組合は、各分野の経営者と従業員の代表によって組織された同業組合に置きかえられた。

対独協力信奉者　ナチスの思想の信奉者で（軍隊組織を含めて）占領軍に協力することを支持した。

国家の対独協力　政治、経済、軍事の各面で、ドイツの要求以上に協力した。しかし戦争については、フランスの中立を保持しようとした。

民兵団Milice　1943年1月30日、ヴィシー政権が創設した極右の軍隊式の組織。

STO　1943年2月16日に創設された2年間の強制労働奉仕。21歳から23歳の青年に適用された。

鍵となる概念

国民革命　1940年にペタン元帥が提案したフランス再生のプログラムの名称。1789年の原理にたいする反動。

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フランス国の標語「労働・家族・祖国」

労働


家族


祖国