今回も連載「フランス雑感」のその4を転載します。内容が過去の記事とダブるところもあると思いますが、お許しください。
フランス雑感 その4 労働運動
日曜は完全休日
私がフランスで驚いたことのひとつに、有名百貨店が軒を連ね、平日は買い物客や観光客で賑わうオスマン大通りが、日曜日には人気がなく閑散としていることです。つまり軒並み店が休みで、車もまばら、まるでゴーストタウンです。私の住んでいる街も、開いているのはアラブ人の店と、回り持ちで営業するパン屋さんだけです。日曜日は、フランス人にとって完全休息日なのです。
週35時間労働制の導入
2000年社会党政権は、週35時間労働制(従来は39時間)を導入しました。この結果、約860万人(2人に1人)の労働者がこの労働時間短縮の恩恵に浴し、また実施後4年間に24万人の雇用を創出しました。
しかし保守政権はこの週35時間労働制を目の敵にしています。導入時には、年間の法定超過労働時間の上限は180時間でしたが、2005年には220時間に変更されました。
超過労働時間買い上げの道が開かれる
超過労働時間は日本のように手当で支給されません。ですから超過労働時間は有給休暇として、バカンスなどに活用されます。
未消化の有給休暇については、2004年までは1年につき22日を限度として「貯蓄」することができ、また5年の期限で消化しなければならないという制度がありました。
しかし5年の期限も廃止され、休暇の貯蓄を現金化することも選択肢のなかに入れられ、超過勤務時間の買い上げの道が開かれました。
職場での労働組合
フランスでは日本の大企業の労働組合でみられるユニオン・ショップ(労働者の組合加入の強制)や組合費のチェックオフがフランスでは禁止されており、組合役員が組合費を徴収します。そのこともあって、フランスにおける労働組合の労働者組織率は8%前後と、他国にくらべ低い水準にあります(日本の組織率は18%)。
しかし各企業で2年に一度おこなわれる職場代表(企業経営についての情報提供を受けたり、労働条件などについての苦情申し立てをおこなう)選挙には、全従業員が参加するので、個々の労働者の要求はそこで反映されることになります。
フランスにおける労働組合の地位
ストライキを背景とした政労交渉の様子はテレビのニュースのトップで扱われ、ナショナルセンターの労働組合の全国書記の知名度は政党の党首なみです。フランスにおける労働組合の影響力は、日本とは比較にならないくらい大きいのです。メーデーでは、労働総同盟のチボー全国書記が、若い参加者のサイン攻めにあっていました。
ストライキ権の尊重
今年1月29日に、サルコジ政権の銀行への財政出動と全国でおこなわれている人員削減に反対して、ゼネストがおこなわれました。ゼネストの参加者はナショナルセンターの違いを超え、これまでにない広がりを見せました。この流れが、フランス労働運動史上初めての、8大労組の統一メーデーにつながり、これまでにない参加者数を数えました。この統一の機運はメーデー後も続き、これまで交流もなかった組合が意見の違いを乗り越え、「階段を一段上ろう」としています。
またゼネストの直前におこなわれた世論調査では、支持すると回答した人が69%にものぼりました。ここには経済危機の大本にメスを入れず、国民生活を犠牲にして乗り越えようとする政府への怒りが読み取れます。
それとともにフランス人の、ストライキに対する考え方も反映されているのです(ストライキ権は、憲法で保障されています)。つまりストライキ権の尊重です。もっとくだけて言えば、「今度は私たちがストライキをする番になるだろう」ということです。
個性の団結力
かつてドゴール大統領がフランス人の個性の強さについて、「265種類のチーズをつくるフランスを、どう統治すればいいんだ?」と嘆きました。労働運動も100人いれば100通りの考えがあります。しかしそれがいったん団結すると大きな力を発揮します。1936年には、ゼネストなどによって人民戦線政府を誕生させ、バカンスを勝ち取りました。また1968年の5月には、ゼネストによって、10%の賃上げ、最低賃金引き上げ(35%)、時短を勝ち取りました。
システムD
フランスには、システムDという言葉があります。私はこのDをダイナミックではないかと思うのですが、いまだにわかりません。
この言葉は1995年、緊縮財政による社会保障の削減案に反対して約ひと月以上おこなわれた大ゼネストのときに生まれました。つまり完全にストップした交通機関に替わる移動手段があちこちで考え出されたのです。
自転車、キックスケーター、ローラースケートが大活躍しました。インターネットでは、貸し自転車、貸しローラーの広告があふれました。また待ち合わせの時間・場所を決めて、友達の車で移動というのもあります。長期ゼネストを、自分たちの工夫で乗り切る、というより楽しんでいるようにさえ思えます。
ときどき道路を車両進入禁止にして、ローラースケートを楽しんでいるのを見かけますが、あの大ゼネストの名残りなんでしょう。
<フランス労働条件豆知識>
有給休暇日数 ひと月に2・5日、年間30日あるいは5週間
休暇となる祭日 10日。祭日が木曜日にあたると金曜日を、火曜日にあたると月曜日を休日扱いにして連休(有給休暇の有効活用)にする企業が多い。(フランスでは、橋を架けるという)
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