
ウサギたちは、身を隠すこともしませんでした。
犬はどこまでも追いかけてきましたが、それも道路まででした。そこで諦めて、ちょっと吠えただけで、道路を渡ろうとはしませんでした。
小川まで来た二匹は、草むらの中で横たわり、夜になるまでそこを動きませんでした。


初めて口を利いたのは、デカ灰ウサギでした。
「チビ茶よ。おまえは、これからずっとここで暮らすのか?」とつぶやくように言いました。
「そうなると思う」。
「おれたちは、前にいたところの、ほんの近くまで戻ってきたんだな」。
チビ茶ウサギは、悲しそうに首を振りました。「デカ灰君、ぼくが君と一緒に戻らないことは知ってるはずだ」。

「おまえがそうしたいと思えば、できることさ」とデカ灰ウサギが言いました。「おまえは島の管理員を恐くはないのか?」
「もちろん恐いよ」とチビ茶ウサギ。「道路も恐いし、人間と犬も恐いし・・・」
「おまえは、とても勇気があるんだな」とデカ灰ウサギが言いました。「それに、おれよりずっと立派にやりこなす。おれは、あまりにも多くのことを忘れてしまった」。

「着いたよ」とチビ茶ウサギが言いました。
「ここから明かりが見えるよ。もう少し一緒にいてあげるよ。それからさよならを言わなくっちゃね」。
二匹は音を立てずに、柵に沿って建物のほうに向かいました。

しかし建物に近づくとともに道を間違ったことに気づきました。
「ここじゃないよ」とチビ茶ウサギが囁きました。
「だって、さっきそう言ったぜ」デカ灰ウサギは、また震えだしました。
「だいじょうぶだよ。すぐ見つかるよ」とチビ茶ウサギが言いました。

月はまだ出ていませんでした。二匹は、柵の下をくぐりました。干し草が匂いました。すぐ近くで、コオロギが鳴いているのが聞こえました。
「ぼくは、そんなに長くここにいれないよ」と、チビ茶ウサギが言いました。
「わかってるよ」とデカ灰ウサギ。
「おれのこと、忘れないでくれ。ほら、あの、おまえの穴ぐらで暮らしても。あぁ!チビ茶よ。おれはお前なしでどうなるんだろう?」
「君は、また別の友達を見つけるさ」とチビ茶ウサギが言いました。

「もう、お前のようなダチはできないよ」とデカ灰ウサギは言いました。
でも、チビ茶ウサギには聞こえませんでした。もう、柵の下をくぐっていました。
「おまえの幸運を祈ってるよ。チビ茶」デカ灰ウサギはまだ話しかけていました。「うまくやるんだぞ!」

-終わり-
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