自民党の憲法改正案(前文)にたいする私なりの受け取りを記してみました。
自民党が発表した憲法改正案が出ました。その序文は次の通りです。
「日本国は、長い歴史と固有の文化を持ち、国民統合の象徴である天皇を戴く国家であって、国民主権の下、立法、行政及び司法の三権分立に基づいて統治される。
我が国は、先の大戦による荒廃や幾多の大災害を乗り越えて発展し、今や国際社会において重要な地位を占めており、平和主義の下、諸外国との友好関係を増進し、世界の平和と繁栄に貢献する。
日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、基本的人権を尊重するとともに、和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する。
我々は、自由と規律を重んじ、美しい国土と自然環境を守りつつ、教育や科学技術を振興し、活力ある経済活動を通じて国を成長させる。
日本国民は、良き伝統と我々の国家を末永く子孫に継承するため、ここに、この憲法を制定する」。
現行憲法の前文は、日本国民の決意、宣言で始まり、それによって終わっています。他の国の憲法前文も、たいていそうです。しかし自民党案では、国の規定から始まります。それは「長い歴史と固有の文化」という、およそエスニックな内容を冒頭に置いています。
そして憲法のもっとも基本であるべき国民主権を、国の規定の最後に、つまり天皇のあとにもってきています。その国民主権も、現行憲法にある原理を述べることなく、まるで枕詞的あつかいです。
「先の大戦による荒廃や幾多の大災害」と、他国を侵略し多大な惨禍をもたらした戦争を、その反省に触れないどころか、自然災害と同様の災禍と捉えています。それによって、そのあとの平和主義や世界の平和に貢献が、いかにも空疎なものになっています。
第3パラグラフで、初めて主権者である国民が出てくるのです。ここでも「国と郷土を誇りと気概をもって守り」とエスニックな強調が現れます。それだけでなく、戦前の軍国主義を彷彿とさせる表現です。防衛を前文にもってきた世界の憲法は、アメリカ合衆国憲法の他には見ることができません。
そのあと「和を尊び、家族や社会全体が助け合って国家を形成する」という、まるで修身的内容が続きます。全体意思をつくるのは、自立した市民(個人)の全体です。「助け合う」よりも、まず人としての基本的権利をまもることがもっとも重要なのです。基本的人権はついでに書かれたとしか思えません。
最後に「自由と規律を重んじ」という表現がわかりません。背反する二つの概念の並列し、その説明もない粗雑なものになっています。それとも自由は題目で、規律が主眼であるという本音が顔を出したのでしょうか(権利と義務であれば、理解できるのですが)。
全体に、いわばエトノス(民族的共属意識)の強調が基調になっています。国家は、いわば社会契約の上につくられた仕組みです。国家にエトノス的なものを付け加えることは、戦前の日本軍国主義天皇制やナチス・ドイツがやって来たことです。
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