Facebook友のページで、日本国憲法の起草メンバーであった、ベアテ・シロタ・ゴードン氏にたいする暴論を目にし、その不見識と卑劣さに唖然としました。あまりにもひどい記事なので、自分なりに反論してみました。
<引用開始>
憲法を押し付けた思い上がりと偏向 産経ニュース 2013.2.4
日本国憲法の草案作りに関わり、昨年末に89歳で死去したベアテ・シロタ・ゴードン女史は、他国に憲法を押し付けるという行為に心の痛みを感じていなかった。
当時22歳で、米国籍を取得したばかりのシロタは、子供のころウクライナ出身ユダヤ人の両親とともに東京に住んでいたため日本語が話せるという理由でGHQ(連合国軍総司令部)民政局のスタッフに採用され、なぜか憲法起草メンバーに選ばれた。
著書『1945年のクリスマス-日本国憲法に「男女平等」を書いた女性の自伝』によると、シロタは「日本人というのは、本質的に封建民族」「人権という概念を話しても通じない」と見下し、民政局長のコートニー・ホイットニーから、軍事力を使ってでも憲法を押し付け日本が作ったことにするんだと訓示されて「そんなことは十分あり得る状況に、当時の日本は置かれていた」と思い上がっていた。
憲法について「ハイスクールの社会科で習った程度の知識しかない」と認めながら「どうしよう! でもチャンスだわ!」と軽いノリで参加する。まずやったのは、日比谷図書館や東大で米国などの憲法を集めることだった。GHQが東京の図書館で米国憲法を探す…。コメディーとしかいえない。
集めた資料を読んだシロタは「ワイマール憲法とソビエト憲法は私を夢中にさせた」「ソビエトの憲法は…社会主義が目指すあらゆる理想が組み込まれていた」。GHQ民政局は課長(後に次長)のチャールズ・ケーディスをはじめとしてニューディーラー(要するに社会主義者、容共主義者)の牙城だった。
GHQ内のもう一つの勢力、参謀2部は反共で、民政局の動きを監視していた。部長のチャールズ・ウィロビーは著書『GHQ知られざる諜報戦-新版・ウィロビー回顧録』に、諜報部門がシロタを調査した秘密文書を載せている。そこにはシロタの日本への憎悪が指摘され、ソ連との関係が強く示唆されている。
シロタが本当に人権を大事に思っていたなら、まず、両親の祖国である強制収容所国家ソ連や、黒人に参政権を与えていなかった人種差別国家米国の憲法を正す努力をすべきだったのではないか。(渡辺浩/SANK EI EXPRESS)
http://sankei.jp.msn.com/politics/news/130204/plc13020417120016-n2.htm
<引用終わり>
渡辺浩氏は、ベアテ・シロタ・ゴードンが、「東京に住んでいたため日本語が話せるという理由で」GHQのスタッフに採用され、「なぜか憲法起草メンバーに選ばれた」という。
ベアテがGHQのスタッフに採用されたのは、「東京に住んでいたため日本語が話せるという理由」だけではない。彼女は、両親がふたたび日本に渡ったので18歳で自立、学業の傍らで翻訳関係のアルバイトで生計を立てた。カレッジを最優秀で卒業し、戦争情報局を経てGHQのリサーチャーとして採用された彼女は、すでに優秀なキャリア・ウーマンだったのである。
そして彼女は、「なぜか」憲法起草メンバーに選ばれたのではない。選ばれるべくして、選ばれたのである。その理由は次の通りである。
第1の理由
彼女は、日本にいるときにすでに露、独、英、仏、ラテン語を習得しており、先にものべたように翻訳でさらに語学力を磨いていた。そしてタイムズ紙で、リサーチャー(資料集め)の経験を積んだ。この二つのスキルは、彼女が短時間に世界の憲法条文を把握するのに、大いに力を発揮した。
社会保障と女性の権利を担当したベアテ・シロタ・ゴードンが参考にしたのは、ワイマール憲法(法の前の平等、婚姻、家庭、母性の保護、児童の保護)、アメリカ合衆国憲法(信教、言論、出版、集会の自由、請願権、婦人参政権)、フィンランド憲法(養子縁組法)、ソ連憲法(男女平等、女性と母性の保護)である。これらの条文が、当時最先端といわれた日本国憲法の条文に結晶したのである。
第2の理由
ベアテが「ハイスクール」で学んだ憲法は、なによりも個人が自立し、権利が擁護され、男女の平等が明記された近代の憲法であったことが重要なのである(渡辺氏が指摘する黒人の参政権の問題があったとしても)。
第3の理由
彼女が成長期の10年間を日本で過ごしたことも重要である。日本の文化に親しみながらも、同時に日本社会の家父長制、とりわけ女性の地位の低さを知ったことである。ベアテはこのことを頭に置きながら、戦前の家父長制から女性を解放し、男女平等を謳った第24条[家族生活における個人の尊厳・両性の平等]を起草した。
第4の理由
そして両親がさまざまな迫害を受けてきたユダヤ系ロシア人であったことは、ベアテに人の権利をつよく意識させたであろう。
渡辺氏は、ベアテ・シロタ・ゴードンの起草した条文についてはなにひとつ語らず、彼女と民政局についてあれこれ書いている。それにどれほどの意味があるのか?いや、現憲法の価値を貶めるという悪意があるのだ。
渡辺氏が何を言おうが、日本国憲法は、天皇主権から主権在民へ、天皇より賜った臣民の権利から市民の権利へ、家父長制から個人の確立へと変革を遂げた。そして制定から66年間、日本社会の指針となり、我々の生活のなかに根を下ろしたのである。
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